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新潟家庭裁判所新発田支部 昭和41年(少イ)6号 判決 1966年12月03日

被告人 笹川久雄

主文

被告人は無罪。

理由

(事実)

本件公訴事実の要旨は

被告人は客に食事および酒類を販売供与する飲食店「久美」を経営する有限会社丸久商事の代表者であるが、同店の雇人である熊倉恵美がその業務に関し昭和四一年七月六日新潟県新発田市大手町一丁目一三番五号の右「久美」において、来店した本間豊男(昭和二四年一月二四日生)および本間和男(昭和二四年三月二五日生)がいずれも未成年者であり、かつ同人らが飲用に供するものであることを知りながら、その注文に応じて同人らに対しビール二本を販売したものである。

といい、その罰条として未成年者飲酒禁止法第一条第三項、第三条、第四条第二項を掲げており、本件につき取調べた各証拠を綜合すると右公訴事実を証明するに充分である。

これによつてみると、飲食店「久美」の営業者は有限会社丸久商事であるところ、検察官は同会社の代表者である笹川久雄個人を被告人として起訴していることは本件起訴状の記載によつて明らかである(なお、起訴状には被告人の職業欄に「有限会社丸久商事代表取締役」と表示しているが、これは被告人笹川久雄の職業として表示したに過ぎないことは明らかで、同会社を被告人としたものとは到底認めることができない)。ところで、未成年者飲酒禁止法第四条第三項によつて準用せられる明治三三年法律第五二号(法人ニ於テ租税ニ関シ事犯アリタル場合ニ関スル法律)第一条によると、法人の代表者またはその雇人その他の従業者が法人の業務に関し犯した同法所定の事犯につき法人に罰則を適用する旨定めているので、本件の場合においては有限会社丸久商事の従業員である熊倉恵美の犯した未成年者飲酒禁止法違反の犯罪につき営業者である右会社が処罰されるべきであり、同会社を被告人として起訴されるべきものである。もつと前示明治三三年法律第五二号第二条には「法人ヲ処罰スヘキ場合ニ於テハ法人ノ代表者ヲ以テ被告人トス」と規定しているけれども、この規定は訴訟関係において法人の当事者能力が認められなかつた当時の規定であつて、法人の当事者能力を認める現行刑事訴訟法の下においては前記法律第二条は死文化しているものというべく、この規定があるからといつて営業者である法人の処罰に代えてその代表者を処罰すべき筋合ではない。

そうだとすると、前示有限会社丸久商事の従業員の犯した前示未成年者飲酒禁止法違反の所為について被告人は罪とならないものというべきであるから、刑事訴訟法第三三六条前段により被告人に対し無罪の言渡をなすべきものである。

(裁判官 小笠原肇)

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